華劇「注文の多い料理店」前編

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華劇「注文の多い料理店」前編

【あらすじ】
今回のお話は、宮沢賢治の児童文学を華劇風にアレンジした作品です。
狩りのために、とある山に訪れた兄弟…。彼らは一体どうなってしまうのか。



【登場人物】
兄：常盤薫（CV代永翼）
弟：初生谷浩史（CV野島健児）
ゴールド：常盤薫（CV代永翼）
シルバー：初生谷浩史（CV野島健児）
樵：初生谷浩史（CV野島健児）
ナレーション：常盤薫（CV代永翼）

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兄
「おい！忌諱（きき）の山に猟に行こうぜ！」

弟
「でも兄貴！あの山では殺生が禁止されているはず！
　山神が住んでいるって」

兄
「そうだ！だからこそ行くんだ！
　誰も猟に入っていないと言うことは、つまり獲物が沢山居るはず！」

弟
「しかし、そんな事をしたら！御上に！」

兄
「大丈夫！何か問題になれば金を払って許してもらえばいい！」

弟
「確かに！俺たちには金がある！」

兄
「そういうことだ！」

ナレーション
「これは、ある山奥に狩猟にやって来た、とある貴族の兄弟のお話し」

兄
「まったく、いったいどういうことだ！山神どころか、獣一匹いやしない！」

弟
「山の祟りだなんて言って！これじゃあ祟られようもないじゃないか！」

兄
「おい！そろそろ夕方になるぞ」

弟
「ああ…まだ何も捕まえられていないなんて！」

兄
「そろそろ山に入って４時間か…」

弟
「兄貴！このままじゃ手ぶらで帰るハメになっちゃう！」

兄
「俺の稼ぎから言えば、400万の損害だな。
　お前の給料で換算すると、350万と言う所か…。
　しかしまぁ、私は損害だのなんだの、細かい金は気にしないんだがな！」

弟
「あああ…（嘆く）」

兄
「ふはははは！」

兄
「そうは言っても、近頃の世の中は、「カネカネ」うるさいからな」

弟
「そうだね、世の中にはお金で買えないものが沢山あるのにね」

兄
「そんなものあったのか？」

弟
「なかったっけ？あはははー」

兄
「金がない奴らが「カネカネ」言っても、負け犬の遠吠えさ。
　そうだろ？シルバーにゴールド！あはははは」

ナレーション
「二人の連れている猟犬は、ゴールドとシルバーと名付けられていました。
　彼等二匹は、欲深く、そして、他人を馬鹿にしている兄弟の姿に
　嫌気がさしていました。」

シルバー
「おい、ゴールド、俺はもううんざりしている。
　どうして、こんなにこいつらは欲深いのだ？」

ゴールド
「何でもかんでもカネカネ、挙句、俺たちの名前までカネじゃねーか！」

シルバー
「まったくだ、ゴールド！
　こないだなんか、金貨は銀貨に換算すると、何枚分になるかな？
　お前は何匹でゴールドと同じ価値になるんだろう？なんて言ってやがった」

ゴールド
「命に値段なんてあんのか？俺らはただ、一生懸命生きてくだけなのによ」

シルバー
「まったくだ。
　俺たちがどんな気持ちで猟をしているかなんて、奴らは考えてもいない！
　動物同士、何が楽しくて殺し合わなきゃならないのか」

ゴールド
「しかも、山神様の忌諱の山で猟をするなんて！許せねーな！」

シルバー
「本当だ！」

ゴールド
「おい！シルバー！俺だってもう、うんざりだ！
　こいつら見捨ててトンズラしようぜ！」

シルバー
「そうだな！そうしよう！もうこんな奴らには付き合ってられない」

ナレーション
「ゴールドとシルバーは、歩きながら、そんな事を相談していたのでした。
　その時、草むらの向こうで、何かが動きました。」

兄
「おい！あそこに小兎がいるぞ！」

弟
「うん？本当だ！まだ子供だけど、獲物は獲物！」

兄
「よーし！行け！ゴールド！シルバー！兎を捕まえてこい！」

ゴールド
「くそっ！あれだけ危険だから出てくるなと伝えたハズなのに！」

ナレーション
「二匹の猟犬は、遂に決意しました。」

シルバー
「おい！ゴールド！」

ゴールド
「なんだ！シルバー！」

シルバー
「もう未練はないよな！」

ゴールド
「ねーよ！むしろ！こいつらにギャフンと言わせてやりてーくらいさ！」

シルバー
「よし！このままトンズラするぞ！」

ゴールド
「らーじゃー！」

ナレーション
「二匹の猟犬は兎を追うふりをして、兄弟の元から去っていったのでした。
　猟犬が逃げたとも気がつかず、二人はしばらく待っていましたが、
　遂に陽は沈み、あたりは暗闇に包まれてしまいました。」

弟
「兄貴！いくらなんでも遅いよ！あいつら、どこまで行ったんだ？」

兄
「あの無能な犬ども、我らに何時間浪費させるつもりだ！」

弟
「そろそろ山を下りないと！迷ってしまうよ！」

樵
「そこのお方、どうかされましたかな？」

ナレーション
「突然、真っ暗闇の中から声がしました。」

弟
「お！お前は誰だ！」

樵
「私は、この山の樵です」

兄
「そ！そうか脅かすんじゃない」


弟「ところでお前は山を下りる方法を知っているか？」

樵
「はい！知っておりますとも」

兄
「ならば案内しろ！」

樵
「手に手綱があるようですが、犬をお連れでしたか？」

兄
「は？そんな事はどうでもいい！犬はまた金で買えばいいのだ！」

樵
「ほお、置いて行かれると申されるか」

兄
「良いから道案内しろ！」

樵
「見殺しですか。ではお互い様と言う事で、彼らの罪を許そうかの」

兄
「なにを訳のわからないこと！ははん？そうか！貴様！金か？
　金ならくれてやるぞ！
　金で言う事を聞かない奴などこの世には居ないからな！」

樵
「はて？」

兄
「要領を得ない奴だ！ではせめて山の中に屋根がある場所か何かないのか！」

樵
「ありますとも。一軒だけ料理店があります」

兄
「ではそこに案内しろ！お前にもたらふく、うまいものを食わせてやる！」

樵
「お断りをさせて頂きましょう。
　しかし、果たして、そのうまいものを食べる事が出来ますかな？」

兄
「ふふ。確かに我々の口に合うものがこの山中にあるとは限らんな。
　この際、贅沢は言うまい！店の中で一番高いもの頼んでやろう」

弟
「一番高い料理が、一番美味しいはずだからね！」

樵
「ほお。分かりました。
　では料理店までは、私が案内をさせて頂きましょう。あとは知りませぬぞ」

兄
「お前の世話になんかならんわ！みすぼらしい樵め！」

ナレーション
「樵に案内されて、二人は山中の料理店に案内されたのでした。」

兄
「おい！ここが！料理店か？」

樵
「はい」

兄
「西洋料理店　山猫軒？だと？」

弟
「山猫でも食べさせてくれるのかな？」

樵
「山猫は食べられません」

兄
「看板に何か文字が書いてあるな。どれどれ」

弟
「ーこの料理店は何かと注文の多い料理店です。
　食材を美味しくいただくためのご準備ですから、
　注文をお聞きいただきます。お聞き頂ける方のみお入りください。店主ー」

兄
「何やら理屈っぽいが、まぁ、腹も減っていることだし、入ってみるか！
　おい、お前！用は済んだ。帰っていいぞ！」

樵
「この料理店は…」

兄
「なんだ？帰らないのか！
　金か？案内しただけで謝礼をせびろうと言うのか！」

弟
「欲深い奴だね！世の中はカネカネカネ…
　そんな事より大事なものがあるのに」

兄
「いくら欲しいのだ？」

樵「そんなものは要りませぬ。是非お逝きなさいませ。
　それでは失礼をさせて頂きます。良き料理に…。ふふふ」

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