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前編 後編


華劇「注文の多い料理店」後編

【あらすじ】
樵に案内され、山中の料理店にたどり着いた兄弟。
一体どんな料理が出てくるのか…。



【登場人物】
兄:常盤薫(CV代永翼)
弟:初生谷浩史(CV野島健児)
ゴールド:常盤薫(CV代永翼)
シルバー:初生谷浩史(CV野島健児)
山猫:初生谷浩史(CV野島健児)
ナレーション:常盤薫(CV代永翼)

ナレーション
「山神の住む忌諱(きき)の山へ狩猟に出かけた貴族の兄弟が、
 陽の沈んだ山中で出会った樵に案内させて辿り着いたのは、
 西洋料理店「山猫軒」でした。
 料理店の扉には、看板が掛かっていて、
 『この料理店は何かと注文の多い料理店です。
 食材を美味しくいただくためのご準備ですから、
 注文をお聞きいただきます。お聞き頂ける方のみお入りください』
 と書かれていたのでした。」


「おい。邪魔するぞ!」

ナレーション
「二人が店に入ると、自然に扉が閉まり、鍵が掛かりました。
 先には廊下が続いていて扉があり、扉の前には看板がありました。」


「ちょっと!急に閉まるとびっくりするじゃないか!鍵まで掛けやがって!」


「あそこの看板に何か書かれているぞ!」


「なになに?
 ーこれから廊下を進んで頂きます。
 扉の前の看板に注文が書かれていますので、その注文に従ってから、
 先にお進み頂きますようお願い申し上げます。
 それでは、最初のご注文です。
 銃弾、火薬、その他のお荷物を、
 こちらの部屋において先の扉にお進みくださいー」


「なるほど!ここはクロークって訳か!」


「係りの者が居ないのは不満だけど、
 鍵も掛かっていることだし、盗まれる心配もないよね」


「仕方がない。田舎だから、きっと人手が足りないのだろう」


「ま、後で店長にはしっかり文句言わなきゃだけどね!」

ナレーション
「二人は銃と弾薬、カバンを置いて、扉をあけました。
 するとまた、扉に鍵が掛かり、先に看板を見つけました。」


「ータイピン、金属のボタン、眼鏡、財布の小銭も含めた金属
 並びに尖ったものは全てこの部屋に置いて行ってくださいー」


「なんなんだ?金属がダメとはどういう了見だ?」


「もしかしたら電気を使う料理なのかもしれないね」


「どういうことだ?」


「特別な趣向を凝らした調理をするのかも?
 感電しないようにとか?」


「なるほど!田舎者は田舎者なりに考えていると言う事だな!
 滅多と来ない都会の客をびっくりさせてやろうと言う魂胆か!」


「よく分からないけど、早くご飯も食べたいし、注文に従って先に進もうよ?」


「そうだな、なんだか知らんが、たまにはこういった趣向も悪くないな!」


「うん!」


「さて。また次の扉があるわけだが。次の注文はこれか!」


「なになに?
 ー壺の中のクリームを顔や手足にしっかりお塗り下さいー」


「ほう?白いクリーム?これは牛乳かな?」


「みたいだね。牛乳のクリームを塗ると肌がきれいになるからかな?」


「なるほど!そうか!山中の夜は冷えるからな。
 クリームで保湿して、肌のひび割れを防ぐためか!
 何とも行き届いた店ではないか!」

ナレーション
「二人はクリームを顔と手足に塗りました。
 二人が次の扉を開けようとすると、
 注意書きがもう一つある事に気が付きました。」


「なになに?
 -クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか?ー」


「おっ!耳は忘れていた!」


「ダメだよ兄貴!耳がひび割れたらどうするんだよ」


「そうだったな!さて、塗ったぞ!さぁ、そろそろ腹も減ってきた」


「ほんとだよ、もう腹ぺこだ!」

ナレーション
「次の扉を開けると、また看板が出てきました。」


「まだ注文がある!本当に注文の多い料理店だな!」


「今度の注文はどれどれ…
 ー料理はもうすぐ出来ます。15分とお待たせは致しません。
 今度は、あなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてくださいー」


「なんなんだ!これは?香水をかけるのか?」


「この料理店は、よっぽど格式の高い料理店なんだね。
 本当の紳士淑女と言うものは、
 確かに給仕などにも不快な思いをさせないものだからね」


「なるほど。しかし、これは何とも酸っぱいにおいなのだが」


「まぁ、いい香りじゃないよね。これはもしかして、お酢?」


「いや!俺は聞いたことがあるぞ!
 どこかの国では、酢は香料としてとても気品があるものとして
 扱われているそうだ。きっと、この西洋料理店は、
 我々が知らぬ異国の文化の料理を出してくれるに相違ない」


「そ、そうなのかな。だけど兄貴。なんか変な気がしてきたんだけど…」


「もしかしたら、酢と香水を間違っただけかもしれん。
 後で店主を問いただしてやるだけのことさ」


「そうだね。まぁ、間もなく料理も出来るみたいだし、
 今までの注文は、料理を作っている間の時間稼ぎだったのかもね」


「おい、まだ廊下だぞ」


「なになに?
 -これが最後の注文です。
 裸になって。体中に塩を塗って、お皿の上に、乗って下さいー
 だって!」

ナレーション
「机の上には大きなお皿が置かれており。ナイフとフォークが置いてありました。」


「おい!これはさすがにおかしいと思わないか?」


「は!あわわわ!!やっぱり変だよ!お、おかしすぎる!」


「ぎゃーーー!」


「え?!なになに?!!」


「壁の向こうから!壁の向こうから!!」


「目が!目が!!!ば、化けものが覗いている!!」


「あわわわ!!!ま、まさか!この店は!」


「も、もしかして、ちゅ、注文って、
 あ、あの化け物が客を食べるための注文だったってことーーーー?!」

ナレーション
「その時、壁が崩れて、山猫が現れました。」

山猫
「ほほほ。さすがにバレてしまったね。
 今からあんた達を料理して食べてあげるよ。
 どう調理されるのお好みかい?
 最後の願いだ!聞いてあげるよ!」


「い!いやだ!勘弁してくれ!」

ナレーション
「二人は必死に逃げ出そうと、
 後ろの扉を開こうとしましたがビクともしません。
 山猫はその様子を嘲笑うようにニヤニヤと見ていました。」


「そ!そうだ!金だ!金ならやるぞ!」


「そうだ!我らは金ならいくらでもある!全部、お前にあげるよ!」

山猫
「ほー、そうかい。おいくら頂けるのかしら?」


「そ、そうだな!百万は!」

ナレーション
「山猫はキッと二人をにらみました。」


「こら!百万円だと安すぎる!一千万やろう!」

山猫
「いらないねぇ。猫に小判と言う言葉を知らないのかい?
 それに、あんた達は1銭も持っていないではないか?」


「ある!ある!うちに帰れば、死ぬほど金はある!」

山猫
「ほぉ?死ぬほど?金がある?」


「そうだ!あるのだ!」

山猫
「ならば死ねばよい!あはははは!金で買えないものはないのであろう?
 それならば、あんた達は自らの命を買ってみるがよい。
 いくらで買えるのかな?」


「そ!そんな!それなら全財産を!全財産を!」


「全財産をお前にあげる!」

山猫
「いらないねぇ。あんた達は本当に、自分の命を、金で買うつもりなのかい?」


「か!金では!金では。命は!!
 命は!命は買えない!!!」

山猫
「ふふふ。いい加減に、私も腹が減った、どちらかを頂く事にしよう。
 そもそも命に上下はないのだが、
 せっかくなのであんた達の言う通り、金のある方から食ってやろうかの?」


「ぎゃー!!やめてくれ!
 どうして俺が!俺が!食べられなければならないのだ!」


「兄貴!逃げて!兄貴!」

ナレーション
「二人の顔は恐怖のあまり、
 まるで老人のように皺くちゃになってしまいました。
 その時、急に扉が開いて、二匹の猟犬が飛び込んできました。
 ゴールドとシルバーでした。」


「お!おまえたち!」

山猫
「何かあったかな?」

シルバー
「山神様、我らが見捨てた主人ではありますが、
 どうか命ばかりは助けていただけませんでしょうか」

ゴールド
「俺らも、一宿一飯の恩があるヤツらが食べられるってのは、
 さすがに寝つきが悪くなりそーだ。どうか、命だけは!」

山猫
「しかし不思議じゃ、人間のみが、死を目の前にして言い訳を致す。
 他の動物は私に食われる時ですら、不平不満を決して口にせぬのに」

山猫
「欲深い男ども!この二匹の願いに免じて、許してやろう!
 どこへなりとも行ってしまえ!」


「あ!ありがとうございます!ありがとうございます!」

ナレーション
「気が付いたら、皺くちゃになった顔のまま、兄弟は山の出口にいました。」


「ぐーぐー」


「うん?あ、あれ?どうしたというのだ。寝ていたのか?」


「ぐーぐー…」


「うわ!!な、なんだこいつは!」


「え?なに?どうしたの?
 が!わ!ば!化け物!!!」


「お!お前は誰だ?」


「お!俺は!お前こそ!誰だ?
 顔が皺だらけの化け物…あ、兄貴?!ゆ、夢じゃなかったのか…!」


「なんということだ…と、とにかく街に戻ろう!」

ナレーション
「二匹の犬の助命により、山神様から命だけは助けられた二人でしたが、
 皺くちゃになったその顔は、何をやってみても
 二度と戻ることはありませんでした。
 彼らが屋敷に戻るのを諦めて、ひっそりと街を出た時、
 その姿を、ゴールドとシルバーは、お屋敷の中から
 悲しそうに眺めていたそうです。」



前編 後編

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