華劇「雨月物語 菊花の約」後編
【あらすじ】
兄となった赤穴の帰りを心待ちにしている左門。
しかし、彼は一向に帰ってくる様子がない。
諦めかけたその時、黒い影がゆっくりと近づいてくるのが見えた。
【登場人物】
赤穴:衛守祭(CV:松野太紀)
左門:初生谷浩史(CV:野島健児)
丹治:衛守祭(CV:松野太紀)
華人:初生谷浩史(CV:野島健児)
左門
「あっ、あれは……兄さんだっ! 兄さん!」
お帰りなさい、兄さん! 疲れたでしょう? さあ、早く家の中に!」
赤穴
「左門……」
左門
「約束通り、宴の支度をして待っていたんだよ!
母さんもさっきまで起きていたんだけど……兄さん?」
赤穴
「……」
左門
「ほら、おなかが減っているんじゃないの? 兄さんのために用意した料理だよ。
ね、食べてみて」
左門
「兄さん? 何か嫌いなものとかあった? ……どうして黙ってるの?」
華人
「赤穴は、じっと押し黙って膳と左門の顔とを交互に見た後、深いため息をついた」
赤穴
「左門……私は……お前が用意してくれた料理を、食べたくても食べられないんだ」
左門
「え?……体の具合でも悪いの?」
赤穴
「……いや……お前に話しておかなければならないことがある」
左門
「兄さん?……いったいどうしたの?」
赤穴
「私はもう、この世のものではないんだ、左門。
今はひと時だけ、魂が生きていた時の姿を借りている」
左門
「な、何言ってるの、兄さん。そんなバカなこと……兄さんは疲れてるんだよ!
少し休めばきっと……」
赤穴
「いや、本当のことなんだ。お前の料理も食べられないどころか……
匂いすら受け付けられないんだ」
左門
「……そんな、まさか」
赤穴
「お前と別れて国に帰ってみれば、国の人々は塩谷様のご恩を忘れ、
それどころか、裏切って謀反を起こした尼子(あまこ)に、すっかり媚びていた」
赤穴
「私のいとこである丹治までが尼子に仕えていて……
あろうことか、私にも仕官するよう求めてきたんだ」
赤穴
「私にとって尼子は敵……当然断って、すぐにこちらへ戻ろうとしたのだけれど――」
左門
「……何があったの?」
赤穴
「……私が仕官しないことに怒った尼子が、丹治に命じて私を城内に監禁したんだ」
左門
「ええっ!? そんな……」
赤穴
「私は、城内から抜け出すことができぬまま、
約束の9月9日――今日を迎えてしまった」
赤穴
「左門、私たちは以前語り合ったよね。
『この乱れた世の中で最も大切なのは信義を守ることである』って」
左門
「うん、もちろん覚えてるよ、兄さん。ぼくたちは同じ信念を持ってた」
赤穴
「……私はきっとお前が私を信じて待っているだろうと思った。
私が戻らなければ――きっと落胆するだろうと」
赤穴
「お前にだけは、信義を守らぬ嘘つきな男だと思われたくなかった」
赤穴
「その時思い出したんだ。古いことわざを」
左門
「兄さん、まさか――」
赤穴
「人間は一日に千里の道を行くことはできないけど、魂ならばそれができる。
脇差は取り上げられていなかったから、
それを使って、ひと思いに首元を――」
左門
「……! 兄さんっ!」
赤穴
「そう、そして私はこうして魂になって君の元まで帰って来たんだ。
……今度こそ永遠のお別れだ……左門」
左門
「兄さん!」
赤穴
「ありがとう、左門。君の兄になれて嬉しかった」
華人
「言い終えると、赤穴の姿は忽然と消えていました。左門は信じられず、
周囲を探し回りましたが、暗い空には、氷輪の月が沈みかけているばかり……。
その夜、左門は赤穴を想ってひたすらに泣きました」
華人
「翌朝。せめて兄の骨を墓におさめてやろうと、左門は出雲に向けて出立しました」
丹治
「私に用があるというのは貴方ですか? 私は忙しい身なのですがね」
左門
「私は赤穴宗右衛門の弟で左門と言います。死んだ兄のことでお話がありまして」
丹治
「宗右衛門に弟がいたとは初耳だが――?
いや、それよりなぜ貴方が宗右衛門の死を知っているのです?
宗右衛門が死んだのは10日前。
使いが走ったとしても、往復にひと月はかかるはずですが?」
左門
「何の不思議もありませんよ。兄は真の武士でした」
丹治
「……どういうことだ?」
左門
「兄が命を絶ったのは、必ず家に帰ると……私と約束している日でした。
あなたの手で閉じ込められ、約束を果たせないと知った兄は――
命を捨てて魂を私の元へ走らせたのです。
だから私は兄の死も……貴方の所業もすべて知っています!」
丹治
「ま、まさか……そんなことが!?」
左門
「貴方は自分の名誉と立身のためだけに尼子に媚び、
その結果いとこである宗右衛門を殺した……兄は信義を守る誠実な人だったのに――」
丹治
「今時信義など、守る方がマヌケなんだ。このガキめっ!お前も兄の後を追って死ね!」
左門
「死ぬのはお前の方だ! 丹治っ! 兄の敵!」(丹治を切り捨てる)
華人
「丹治を一刀のもとに切り捨てた左門は、そのまま城下に逃れて姿を消しました」
華人
「この一件を知った主君の尼子経久(あまこつねひさ)は、
『自分の立身出世のためなら、裏切りも騙し合いも厭わないこの戦乱の世に、
そのような人物がいたとは』と、命を捨ててまで約束を守った兄と、
そして、その兄の敵を討つために出雲までやってきた、弟の信義の篤さに心を打たれ、
左門への追手を出さなかったのだといいます」
◆配信中の華劇公演作品
「シャルロッテ」
ファレストとプライオスは敵対関係にあり、長い間争いを続けていた。そんな中、ファレスト王バプティスと、プライオス王の弟レオンは、密かに親交を交わしていた。ある日、バプティス王との謁見後、帰途でレオンは、ある人物に呼び止められる。その人物とは、ファレストの王子シュリオだった…。
再生ページへ
「仁義なきにゃんけん」
満月の夜には、猫たちが互いの縄張りをかけた真剣勝負、「にゃんけん」を行うという。今宵もまた、満月。猫たちが集まる空き地にて、三毛猫組とニャーク団による一騎打ちが行われようとしていた―。
再生ページへ
「フレンズ」
ある夏の日、亮平はバスケ部の友人達と夏祭りに出かけていた。そこで同じ学校に通う賢一と出会い、言い争いを始めてしまう。そこに突然、鈴鹿という女の子が現れて―。
再生ページへ
「クリスマス キャロル」
スクルージ・キャロルは、偏屈な上に堅物、ケチで傲慢な金の亡者。庭師のティムが娘のルーシィに思いを寄せていることが気に食わず、クリスマスパーティの前日、ある計画をを思いつく―。
再生ページへ
「せをはやみ(ビター)」
天馬学園に通う女子高生 安藤春菜は、昼休みのまどろみの中、不思議な夢を見る。夢の中、心に語りかけてくるその声は自分を第六天魔王と名乗った。戦国時代に愛を誓った二人の、時代を超えた歴史転生ファンタジー! (キャスト:ビターチーム)
再生ページへ
「せをはやみ(ハニー)」
天馬学園に通う女子高生 安藤春菜は、昼休みのまどろみの中、不思議な夢を見る。夢の中、心に語りかけてくるその声は自分を第六天魔王と名乗った。戦国時代に愛を誓った二人の、時代を超えた歴史転生ファンタジー! (キャスト:ハニーチーム)
再生ページへ
◆配信中のラジオシアター作品
「雨月物語 菊花の約」
丈部左門は友人の家で病気で倒れている行きずりの武士、赤穴を見かける。左門は赤穴を看病し、その甲斐あって彼は日に日に良くなっていき…
再生ページへ
「仁義なきにゃんけん 代理戦争篇」
満月のたびに三毛猫組とニャーク団の縄張り争いの方法は、『にゃんけん』と呼ばれ、勝負のたびに引き分けを繰り返していた。
再生ページへ
「雨月物語 吉備津の釜」
豪農の息子、正太郎はは吉備津神社の神主の娘、磯良と出会い、二人は互いに惹かれあうようになる。しかし、二人の将来を占ったところ、思わしくない結果が出てしまう。
再生ページへ
「今日の猫 明日の猫」
身ぎれいな明日の猫と、少し汚れている今日の猫。二人の猫の会話は取り留めもなく続いていく…
再生ページへ
「ジュリオの結婚」
平凡で貧乏な男ジュリオは、長年想い続けていた大金持ちの娘カーラと結婚をし、幸せを噛み締めていた。しかし、そんなジュリオに一通の手紙が届く…
再生ページへ
「シンデレラ」
シンデレラは、継母とその連れ子である姉にいじめられていました。継母達の言いつけを守り、家事をしていると…?
再生ページへ
「プチ・プランス」
飛行機でサハラ砂漠に不時着し、故障してしまった飛行機を直していたぼく。すると、少し変わった服を着た少年がぼくに声をかけてきた。
再生ページへ
「注文の多い料理店」
今回のお話は、宮沢賢治の児童文学を華劇風にアレンジした作品です。狩りのために、とある山に訪れた兄弟…。彼らは一体どうなってしまうのか。
再生ページへ
「アリババと砂漠の盗賊」
今回のお話は、言わずとしれた物語「アリババと40人の盗賊」を、華劇風にアレンジした作品です。さて、今回はいったいどんな展開になるのか。
再生ページへ