華劇「雨月物語 吉備津の釜」後編

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華劇「雨月物語 吉備津の釜」後編

【あらすじ】
磯良を捨て、袖と駆け落ちした正太郎。
磯良は衰弱死し、袖も原因不明の発熱で亡くなってしまう。
そして、連夜悪夢にうなされる正太郎の前に磯良の霊が現れた…。


【登場人物】
正太郎：初生谷浩史（CV：野島健児）
磯良：滑川龍（CV：柿原徹也）
彦六：滑川龍（CV：柿原徹也）
華人：滑川龍（CV：柿原徹也）
ＳＥ：初生谷浩史（CV：野島健児）

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華人
「明日、必ずおまえを喰い殺す……
　そう叫んだ磯良の、鬼のような形相が頭から離れない正太郎は、
　昨晩のことが夢とはとても信じられず、夜が明けると、彦六に相談に行きました」

彦六
「正太郎さん、あんた袖が死んで気が滅入ってるんだよ。
　悪夢なんて気のせいだって」　

華人
「彦六は正太郎の言うことを軽く捉え、真面目に取扱いません。
　ですが、正太郎の必死の様子に、隣村にいる有名な祈祷師に
　相談に行くことにしました」

彦六
「た、大変だ！　正太郎さん！」

正太郎
「どうした彦六？　顔が真っ青だ。」

彦六
「どうしたもこうしたもない！　あんたこのままだと死ぬぞ！」

正太郎
「ええっ！？」

彦六
「正太郎さん……あんたの言っていたことは本当だった。
　やっぱりあんたは、磯良の怨霊に祟られてたんだ……
　袖が死んだのも、磯良の祟りだ！」

正太郎
「やはりそうだったのか……ど、どうしよう、彦六！
　今日の夜、あいつはきっと俺を喰い殺しに来るよ！」

彦六
「正太郎さん、大丈夫。よく聞くんだ。
　ほら、ありがたいお札をたんともらってきた。
　磯良が死んだのは七日前だから、こいつを戸口に貼って、
　あと四十二日、家に籠って神仏に祈れば、命だけは助かるそうだ！」

正太郎
「おお……ありがたい……。それで助かるなら従うよ」

華人
「そしてその日の夜――」

正太郎
「ああ……これから四十二日もの間、ずっと一人で過ごさないといけないのか。
　心細いなあ。どうか神仏よ、お守りください」

華人
「正太郎が神仏に祈りを捧げていると、
　丑三つ時に―――」

ＳＥ
「トントン」

華人
「と戸口を叩く音がします。」

磯良
「正太郎さぁん……私です。お迎えに来ましたよおおおお」

正太郎
「い、磯良！？」

磯良
「ああ！　戸にお札が貼ってあって中に入れない！
　ううううう……おのれえええ」

正太郎
「ひいいい！」

華人
「次の朝――」

正太郎
「彦六！　夕べの晩、磯良がやってきて戸口を叩いたんだ！
　お札のおかげで、中には入れずに帰って行ったよ」

彦六
「なんと……やはり祈祷師の言うことは正しかったのか」

正太郎
「俺はどうしたらいいんだ……
　このまま一人で夜を過ごしていたら、気が狂ってしまうよ！」

彦六
「落ち着け、正太郎さん。今晩からオレも隣の部屋で寝ずの番をしてやる。
　壁越しに声をかけあえば、少しは安心だろ？」

華人
「それから毎晩磯良はやってきて――」

ＳＥ
「ドンドン！ドンドンドン！」

磯良
「ああ……お札が邪魔で中へ入れない！！　恨めしい！
　正太郎！　中へ入れろおお！」

ＳＥ
「ドンドン！」

磯良
「うう！　憎い！　喰ってやるぞ！　正太郎おおお！」

華人
「磯良の怒りは夜ごと激しくなり、戸口の外は
　嵐のように激しく荒れるようになったのです」

正太郎
「ううう……すまない磯良……もう許してくれ」

華人
「正太郎はひたすら神仏に祈り、怯えながら、
　千年の長さにも感じられる四十二日間を耐え、そして最後の夜――」

正太郎
「今日で四十二日。夜が明ければ俺は助かるんだ……！」

華人
「その時、嵐のように荒れていた外がしんと静まり返り、
　戸口の隙間から、真っ暗な部屋の中に光が差し込んできたのです」

正太郎
「はっ！　これは！　外が白んできたんだ！　夜が明けたんだ！
　ははは！　俺はついに磯良の呪縛に打ち勝ったんだ！」

華人
「正太郎は自由になったことを喜び、
　隣の部屋の壁をどんどん叩いて彦六に話しかけました」

正太郎
「彦六！　ついに磯良の祟りから解放されたよ！」

彦六
「やったな！　正太郎さん！　これは祝い酒でも飲まないと！」

正太郎
「ああそうだね。しばらくお前の顔も見ていないし……」

彦六
「おう！　じゃあオレの部屋で酒盛りでもしよう。早くこっちに来いよ」

華人
「そう言って彦六が自分の部屋の扉に手をかけたその時――」

正太郎
「ぎぃやああああああ！！」

彦六
「し、正太郎さん！？　一体何があったんだっ！」

華人
「彦六が慌てて外へ飛び出すと、空には冬の満月が冴え冴えと輝いていました」

彦六
「なんてこった……まだ夜は明けてない！
　きっと正太郎さんは、雲に隠れていた満月が姿を現したんで、
　その月明かりを夜明けの光と勘違いしたんだ！
　磯良の祟りは、まだ終わっていなかったんだ！」

華人
「彦六が慌てて正太郎の部屋に駆け込むと、中は一面血の海で、
　正太郎の姿はありません。そして、ふと戸口の上を見上げると、
　そこには――頭の生皮がついたままの、男の髪の毛が引っかかっていました。
　夜が明けた後、彦六はなおも正太郎の姿を探しましたが、
　結局、何も見つけることは出来ませんでした。
　彦六がこのことを正太郎の実家と磯良の実家に知らせると、
　人々は不幸な事の顛末に涙を流して悲しみました。
　そして、『結婚前、占いの結果を真摯に受け止め、磯良と正太郎の結婚を取りやめれば、
　こんなことにはならなかったのに』と、
　神仏の教えの尊さに改めて気づき、亡くなった人々のことを思い、
　みな胸を痛めたのでした」

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